2014年9月14日 (日)

『沈みゆく帝国:スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか』

Shizumiyuku  ケイン岩谷ゆかり『沈みゆく帝国:スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか』(井口耕二訳.日経BP社,2014.538p.)は,分厚い本だが一気に読んだ。原書の発売時,アマゾンのカスターマーレビューには★一つが並んだというが,「輝きが失われた」ということばが繰り返されるのがアップル関係者やアップルファンには耐え難かったのだろう。日本ではさすがに高評価のレビューが多い。

 スティーブ・ジョブズの君臨していた時のこと,siriやマップの失敗,それに税金逃れについてはすでに読んだことがあって知っていたが,アップル社内での人事の暗闘,中国のフォックスコン,サムスンとの訴訟の詳細,なぜ電子書籍がうまくいかないかなど初めて知ることも多かった。

 下請けフォックスコンのことは,後藤直義, 森川潤『アップル帝国の正体』(文藝春秋,2013. 212p.)で明らかにされている,冷酷に尊大に日本の製品提供企業を扱うアップルの姿と符合する。

 ちょうど,アップルの2014年9月9日の製品発表があり,この本の主役のティム・クックの姿を見ることができた。ただ,時計やアイフォン6については事前にかなり明らかになっていたので,それほど意外性はなかった。

 新製品を入手しようとして,いつものようにアップルの販売店の前に並ぶ人たちがいるのでアメリカでも日本でもアップルファンは,元気でいるらしい。でも,果たして東京の電車の中でアップルウォッチをつけた人を見かけることになるのだろうか。

 『沈みゆく帝国』では,台湾の元アップルの製品提供企業の大物がこう語ったと書かれている。 

アジアのサプライヤー業界でよく聞かれることなのだが,彼も,アップルのマネージャーが使う汚い言葉が不快だと言っていた。そういう侮辱やストレスをがまんするに値するほど,仕事の報酬は大きくないというのだ。

 おそらくアップル社員は,対取引先だけでなく社内でも「汚い言葉」を使っているのだろう。そうした社内文化なのだろうきっと。


2014年7月12日 (土)

『紙つなげ!』のもう一つの側面

Kamitsunage 佐々涼子『紙つなげ彼らが本の紙を造っている : 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房,2014. 267p.)は,何だか舌足らずな書名であるが,副題を見たときから,タイアップ企画なのだろうと思った。

石巻で存在感のある巨大な製紙工場が津波によって壊滅に近いまでの被害を受けてしまう。工場内に流れ着いた民家の除去,瓦礫の排除,そして,抄紙機の電気設備,ボイラー,タービンを半年で復旧させるまでの数々のエピソードが語られていき,抄紙機が動き出す瞬間は感動的である。さらに,日本製紙石巻野球部員たちの葛藤も巧みに説明されている。

けれども,この本で,さりげなく加えられている被災地の現実の姿が興味深い。一つは,自分は助かったが,他の人々を救えなかったが,あるいはもっと大勢の人々を救えなかったかと誰もが自責する点である。

もう一つは,取材された人々が出会った心ない行為の数々である。具体的には,停電の被災地では,夜になるとゴルフクラブなどを持った窃盗団が徘徊し,宝飾店をはじめ商店を襲っていた,また,駐車している車から無断でガソリンを抜き取る近所の人々がいた。さらには,真面目なものもある一方,住民からは助成金目当てとしかみえない多くのNPOがコンサルテーションに来て引っかき回して去って行った。

エピローグは,絆を強調した再生の感動物語ではなく,苦い現実を突きつけたままになっている。


2013年10月26日 (土)

忘却の『クリフトン年代記』

Jeffreyarcher  ジェフリー・アーチャーの作品は,『百万ドルをとり返せ!』,『大統領に知らせますか?』,『ケインとアベル』,『ロスノフスキ家の娘』,『めざせダウニング街10番地』,『ロシア皇帝の密約』までは,新潮文庫で出る度に読んでいたが,その後は遠のき,長篇を2点,短篇集を読んだ覚えがある。ジェフリー・アーチャーは英国の作家でオックスフォード大学を出て,下院議員になったが,詐欺にあって辞職,稼ぐために『百万ドルをとり返せ!』を描いたらミリオンセラーになり,人気作家になったかと思うと,事件を起こして投獄されたり,変化の多い一生をおくっている。今は70歳を過ぎている。

 自分でも認めるこのストーリー・テラーが,『クリフトン年代記』を書き始め,これまで第三部まで出ている。日本では,今年の5月に『時のみぞ知る』(Only time will tell)(戸田裕之訳,新潮社 上下)として翻訳刊行された。これを,7月始めに読み終えた。
 9月末に,第二部の『死もまた我等なり』(The Sins of The Father)(戸田裕之訳,新潮社 上下)が刊行された。これを買って読もうと思った。そこで気がついたのであるが,第一部の内容が思い出せない。イギリスが舞台で真面目な主人公が最後に大変な目に遭っていたことだけは覚えていたが,細部の記憶がない。そこで,第一部『時のみぞ知る』の下巻を,もう一度読み直した。内容をほとんど忘れていたことがわかった。

 第二部を読み始めれば,第一部を思い出すことができたのかもしれないが,こう忘れやすいのは困ったことである。フィクションは特に覚えにくいのかもしれない。一方では,ジェフリー・アーチャーの小説は,骨格だけでで出来ていて,登場人物の心理などはほとんどないので忘れやすいのかもしれない,と思ったりもする。


2013年9月13日 (金)

『旅立つ理由』と南半球の国々

Tabidatu  旦敬介『旅立つ理由』(岩波書店,2013.201p.)で筆者が訪れるのは,ナイロビ,ザンジバル,グアテマラ,ベリーズ,モロッコ,バイーア(ブラジル),マンディガ(メキシコ),マラバ(ケニア,ウガンダ),キューバ,オレンセ(スペイン),サマランカ(スペイン),チュイ(ウルグアイ),シエゴ・デ・アビラ(キューバ),バラコア(キューバ),メキシコシティなどである。これまで,どこにも行ったことがないし,こうした土地を旅するということ自体考えたことがなかった。

 旦敬介氏は,思考も行動も自由である。

 筆者は,ウガンダに生まれナイロビで働く女性と結婚し,子供が二人いたらしい。1980年代から南半球の国々に住み,旅行をしてきた。ウガンダやケニアでは,内側に入り込んだ経験をする。行動や考え方が日本とは随分違うウガンダ流を知る。なんとかしているうちに問題は解決していく。時間のとらえ方が違っている。

 食べ物のことが大きな部分を占めている。マキシコの湾岸の小さな街で,汽水湖に面して水上に張りだした小さな食堂で,牡蠣を一ダース頼むと,店にたむろしていた男の子が水の中に飛び込んで三分くらいで,一抱えの牡蠣をとってきた。15年後にこの地を訪れ,同じスタイルの食堂に入って,同じように牡蠣を頼んだ。しかし,ざぶんと飛び込む少年はいなかったが,牡蠣は出てきた。前の時はかつがれたのだろうか。


2013年8月18日 (日)

『スタンフォード教授の心が軽くなる先延ばし思考』

Procrastination  ジョン・ペリー『スタンフォード教授の心が軽くなる先延ばし思考』(Perry, John. The Art of Procrastination. 花塚恵訳,東洋経済新報社,2013. 117p.)は,各賞の見出し,先延ばしに意義を見いだす,完璧主義が先延ばしを招く,やることリストがあなたを救う,音楽が先延ばしを防止する,メールとネットは要注意,横型人間の言い分,先延ばしやでない人と仕事をすると,先延ばししてよかったと思うとき,先延ばしやは周囲を不愉快にさせるのか?,をみればおおよその内容がわかる。ただ,第1章の「先延ばしに意義を見いだす」がイグ・ノーベル賞受賞だときくと,読んでみたくなる。

 著者は,査読を頼まれていているのだが,ずっとほったらかしにしていて,それが,気になっているが,どうしても取りかかれない。そこで,自分勝手な言い訳を考える。

 先延ばし自体は誰でも思い当たることであるが,ここに出てくることでいくつかそうだなと思うことがあった。今は,事務的な仕事は,インターネットに繋がったパソコン上で行っている。仕事をしようとパソコンを起動しても,すぐにウェブを観に行ってしまって,いつの間にか深入りしている。ようやく本業を始めても,また,ブラウザーを動かし始めている。仕事と別の関心事が混ざり合った環境が出来上がっている。

 いくつかの書類を用意して仕事をしていて,食事,会議,帰宅などでいったん止める時,普通は,次も同じ状態で始めることができるよう書類をそのまま,開きっぱなしにしておく。オフィスの原則は,仕事をしていないときは,机の上には何も残さないようにしなければならない。しかし,書類をキャビネットにしまうとその仕事のあったこと自体を忘れてしまうのだ。

 物事の解決策の一つとして,先延ばしがあることは確かである。しかし,いくら大学の教員が世間離れしているといったって,期限までに仕事をしないでいて職に留まることができるわけではないではない。そうでないとユーモアエッセイでは終わらない。


2013年6月30日 (日)

『お望みなのは、コーヒーですか? スターバックスからアメリカを知る』を斜め読み

 ほとんどスターバックスには行かないので,なぜ,これほどあちこちにスターバックスがあるこり,客が入っているのか不思議だった。

Starbucks

 ブライアン・サイモン. 『お望みなのは、コーヒーですか? スターバックスからアメリカを知る』(宮田伊知郎訳,岩波書店,2013. 295p)を斜め読みした。二段組みでぎっしりと活字の詰まったこの本は,スターバックス経営の紹介本ではなく研究書である。

 筆者は,テンプル大学の歴史学の教授で,あとがきによれば,9か国の,スターバックス425店を訪問して観察し,計272人と話すといったフィールドワーク手法でこの本を書いた。客は女性が2/3を占め,74%はテイクアウト,一番人気はラテ,61%は一人で来ているそうである。

 喫茶店文化のなかったアメリカでは,スターバックスの存在理由も探求する課題になる。本物のコーヒー,ありきたりでも個性的,サードプレイスもどき,自分へのご褒美で気分直し,毎日の冒険者達のための,ヒア・ミュージック,そんないエコではないカップ,やましさ抜きのグローバリゼーション,という目次から内容がわかる。

 ブライアン・サイモンはこう言っている。

だが,スターバックスが特別な理由は装飾や価格だけでなく,時間に関する約束ごとにある。客はいつまでもスターバックスに滞在することができるのだ。これは会社としての方針であり,この原則によってスターバックスは,サード・プレイス感の構築に不可欠なカジュアルさや開放感を備えているという印象を与えるのである

サード・プレイスというのは,家庭,職場に次ぐ,第三の場所のことである。スターバックスではいつまでいてもよいとは知らなかった。

 スターバックスが人々に与えてきた幻想もそろそろ色あせ,環境にも,コーヒー産出国の農民の収入増にもそれほど貢献していない。

 この本で,アメリカ人の生活の一端がよくわかる。翻訳が上手。


2013年5月14日 (火)

『アイス・ハント 下』の謎

Icehunt  「北極海を潜行中の米海軍調査潜水艦が,最新鋭ソナーで浮標する氷島の内部に廃棄された基地らしきものを発見した。モニタには多くの人間の死体と,何物かの蠢く影が映り込んでいた」で始まる面白いという評判のジェームズ・ロリンズ『アイス・ハント』(Rollins, James, Ice Hunt. 遠藤宏昭訳.扶桑社,2013. 上下)を買おうと思い,神田神保町の一番大きい新刊書店の2階文庫売場で探した。平積みになっている気配はない。扶桑社ミステリの棚に,『アイス・ハント 下』のみがあった。とりあえず,それを手に取り,文庫担当らしい店員に,『上』はないか尋ねた。どこかにいったその店員は,しばらくして戻ってきて,『上』は,事情があって版元回収になったと教えてくれた。

 『下』だけ買っておくか,やめにするかと迷いながら,五分ほど店内を放浪していると,先ほどの店員が再びやってきて『下』をみせてほしいと言い,しきりとページをめくって調べている。面倒くさくなり,「もう買いませんから」と言って店員に渡したまま店を出た。

 帰宅して調べてみたら,出版社のサイトに次のように書かれていた。

 海外文庫『アイス・ハント(下)』をご購入いただきました皆様への重要なお知らせ

 当社より、3月下旬に発売いたしました海外文庫『アイス・ハント(下)』に、本来あるべき第10章(およそ44ページ分)が 欠落しているという不備があることが判明いたしました。

お買い求めいただいた皆様には、たいへんご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ございません。 つきましては、正しく刷り直したものとお取り替えさせていただきます。

お手数をお掛けしまして誠に申し訳ございませんが、皆様のご住所・電話番号を明記のうえ、 弊社宛てに着払いにてお送りいただきますようお願い申し上げます(上巻に関しましては、問題ございません)。

 そうか,事情があったのは『下』だったのだ。買っておけばよかった。アマゾンでは,定価840円の『下』のコレクター商品は,2700円となっている。それよりも,落丁版は手元にほしい。

 ただ,訂正版が既に配本中らしい。それで,あの店員は,わざわざ私を捜して,落丁版か訂正版かを確かめるため,『下』を点検していたのである。さあ,どちらだったのだろう。


2013年4月 8日 (月)

3.11津波被災者の記録『 私が見た大津波』

国立国会図書館のNDL-OPACには件名「東日本大震災 (2011)」があるが,これを使って検索すると東日本大震災について,201348日現在で926冊の本が出ていることがわかる。2012年には523冊,2013年にも53冊が出ている。

Otsunami 河北新報社編『 私が見た大津波』( 岩波書店, 2013. 151p.)はこの中の一冊である。これは,仙台で刊行されている新聞『河北新報』に20114月から12月まで不定期掲載された大津波の被災者の記録75篇を編集したものである。範囲は宮城県沿岸に居住する被災者である。一人一人の氏名,年齢,写真,住所,被災時にいた場所の地図,そして600字ほどの聞き書きと,本人の描いた絵や写真が2ページにまとめられている。信頼性の高い個人の津波体験記となっている。これまで,断片的に聞いたり,読んできたが,こうして多数の事例が集まると,考えさせられることがいくつもある。

押し寄せる津波について,「白い水しぶき」という表現もあったが,ほぼ異口同音に語られるのは,「黒い」波だった,津波は何度も何度も押し寄せたということである。けれども,当然のことながら,場所によって状況が違うので,津波の速さや高さはまちまちである。速さは自動車から新幹線に例えられ,高さは1メートルから15メートルまである。ただ,あっという間に一面が海になったという表現は多い。

 読み進むうちにいくつか教訓のようなものがまとまりかけたが,75篇を読み終わると,そういうものではないなと思わずにはいられなかった。大地震の後は直ぐに逃げなくてはならない,自動車で逃げてはいけないといったことは確かではあろうが,逃げ遅れても,車に乗ったままでも助かった例も出てくる。かといって運不運に帰着するわけにもいかない側面がある。

 様々な助けを得たと述べ,もう会えないと思っていた家族と出会えたと語る人たちも多い。


2013年2月10日 (日)

またも電子書籍実証実験

Bunkaebook  文化庁は,2013年2月1日から野村総合研究所に委託して電子書籍の配信実験<a href=http://www.bunka.go.jp/ima/press_release/pdf/ebooks_130129.pdf>「文化庁eBooks プロジェクト」</a>を実施している。これは,国立国会図書館のデジタル化資料を利用して「擬似的な権利処理等を行う簡易な実証実験を実施するとともに,その契約に係るガイドライン等を作成し,新たなビジネスモデルの可能性を検証する」ことが目的であるらしい。

 配信には,紀伊國屋書店のBookWebが使われている。

 そこで,紀伊國屋書店BookWebに登録し,ソフトをダウンロードして準備した。

 そして,プロジェクトのページに行って,「第1回配信予定資料」7作品,「第2回配信予定資料」6作品から2冊をダウンロードし,閲覧した。無料である。

 永井荷風『腕くらべ』は,1918(大正7)年のものであるが,いくつかのページが斜めになっていた。本を破壊しないでスキャンするのは難しい。時間と費用をかければ補正できるように思えるが,そんな手間はかけられないのだろう。

 もう一冊は,1953(昭和28)年の『きしゃでんしゃ』である。これは,蒸気機関車や湘南電車からとろりーばすまでを,当時まだ珍しかった総天然色写真で見せる絵本である。解説は,交通博物館に勤めた鉄道好きで,42歳で亡くなった時に不審なことがあった鷹司平通氏である。背景を含めてこれらの写真は懐かしい。よくデジタル化して公開してくれたと思う。ただ,見開きの中央の白い部分はどうにかできないのか。

 この実験では,こうした感想が出ることを期待しているのであろうが,デジタル資料閲覧にまでたどり着くことのできる我慢強い人は少ないように思われる。


2012年12月31日 (月)

今年読んだミステリ

 『このミステリーがすごい2013』の中で読んだり,要目とした作品は次の通りである。

国内編
1位 横山秀夫『64<ロクヨン>』文藝春秋(2012,647p.)
64  群馬県くらいの規模の県の警察を揺るがす誘拐事件の顛末と本庁と県警の間,県警内部の抗争がテーマ。主人公は,広報官である。最初は,この主人公が一人相撲をしているのがもどかしかったが,状況に馴染み,事件が起きればひたすら読み続けることになった。ただ,この広報官は狂言回しの一人でしかなく,本当の主人公は,何年もひたすらに一つの行為を続ける別の人物である。

6位 原田マハ『楽園のカンヴァス』(新潮社,2012, 294p.)
 倉敷の美術館で展示作品の監視員をしている早川織絵のエピソードから始まる。実際には,ニューヨーク近代美術館の学芸員ティム・ブラウンが主役である。まだ若手の学芸員であるのに,スイス在住の符合からアンリ・ルソーの作品の鑑定を頼まれジュネーブに行く。そこに,若い頃の早川織絵がやはり鑑定のために招かれていた。
 アンリ・ルソーにオマージュを捧げる絵画サスペンスなのであるが,インターポールの調査官などが出てきて興ざめである。構成もよくないし,アイデア倒れの失敗作と判断した。ところが,これが,第25回山本周五郎賞(新潮文芸振興会主催)を受賞した。選考委員は石田衣良,角田光代,佐々木譲,唯川恵,白石一文の各氏である。

8位 法月綸太郎『キングを探せ』(講談社,2011. 283p.)
 4人による交換殺人というあまりに非現実的な設定で,読み進めることができなかった。

海外編
1位 スティーブ・ハミルトン『解錠師』(早川書房,2011.427p.)
 電子書籍で読書中。

3位 スコット・トゥロー『無罪』(文藝春秋,2012. 469p.)
 『推定無罪』は読んだし,映画も観た。すっかり忘れていたが,これは『推定無罪』の続編で,前作の説明があるが,それを読んでいるうちに,怪しい主人公や米国の面倒な裁判手続きなどに次第に読む気が失せてきたので未読。。    

4位 アーナルデュル・インドリダソン『湿地』(東京創元社,2012.343p.)
 このミステリを紹介する場合,必ずアイスランドの作家で,アイスランドが舞台であることが強調される。しかし,それを除けば,洞察力があるが家庭的に問題を抱えた警官が担当する残忍な連続殺人事件というだけではなかろうか。

5位 フレードリッヒ・デュレンマット『失脚・巫女の死』(光文社,2012.328p.)
 4編の短篇が収録されている。デュレンマットはミステリを書いたわけではないが,この中の3作目の「故障」は,たいした趣向のミステリとなっている。

7位 チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』(早川書房,2011.526p.)
  重なり合って存在しながら,住民はお互いの都市を存在しないように振る舞っているという状況で事件が起きる。SFであればよいのだが,ミステリでは,この設定が活かされないように思えた。途中で脱落。

8位 カルロス・ルイス・サファン『天使のゲーム』(集英社,2012.433p.)
 前作『風の影』は大変気に入ったのであるが,これには失望した。謎めいた話が,何人もが無意味に殺される粗っぽいアクション小説になり下がった。

9位 アラン・グレン『鷲たちの盟約』(新潮社,2012.437p.)
 ルーズベルトが暗殺され,ナチス・ドイツと結んだ米国という,英国が舞台の『ファージング』のような歴史改変ミステリである。米国もきっかけがあれば,極右専制政権に転向するかもしれないということなのだろうか。全体を覆う暗さ,不安感はよいが,結末が唐突だった。


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