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2009年6月 9日 (火)

『やんごとなき読者』は女王陛下

Yangoto_2  アラン・ベネット『やんごとなき読者』(Bennett, Alan,The Uncommon Reader,市川恵里訳,白水社,2009. 269p.)は,イギリスのエリアベスII世を主人公とした小説である。

 女王陛下が飼い犬を追いかけて宮殿の普段,近寄らない場所に来ると,移動図書館のバスがひっそり停まっていた。犬の騒音を詫びるために車の中に入ったが,何か借りなければいけないと思った女王は,昔から読書にはあまり興味はなかった。

 しかし,一冊も借りないで帰ったら係の図書館員は,この図書館に欠けたところがあると思うかもしれない。そこで,アイヴィ・コンプトン・バーネット(Ivy Compton-Burnett)という英国作家の本を借りて出た。この本はよみづらかった。次の週に本を返しに行き,恋愛小説を借りたが,ユーモアのあるこの本にはすぐに夢中になった。

 そして,移動図書館にいた厨房の下っ端の若い男を書記にして,読む本の相談と入手を担当させることにした。こうして女王は読書にのめり込んで行くのだが,周囲のものどもは女王の読書を歓迎していなかった。女王ほど世界の各地に行き,著名人にあってきた人はいないのに,つまり本物を見てきたのになぜ世界の反映や説明に過ぎないものに興味をそそられるのか。

 こうして,首相を含む人々と軋轢を引き起こしながら女王は活字中毒になっていく。これはまず読書小説である。

 一冊の本は別の本へとつながる。
 読みたいだけ本を読むには時間が足りない。
 読書はともすると人を排除するもの。
 本は暇つぶしなんかじゃない。

といった読書についての言葉が並ぶが,もちろん70歳を超える著者が手放しで読書を礼賛するわけがない。読書がいかに問題を引き起こすか,特に,やんごとない方々には読書は不要なものであるかを説いている。女王からジャン・ジュネについて問われたフランス首相が途方に暮れるのは当然である。

 著者は,女王の読書を通じて自分の読書の趣味を吐露している。ディック・フランシスは,一,二冊でやめた。いろいろあったが,ヘンリー・ジェームズはやはり評価する。

 。著者は,もう一つ女王のものの見方を推測している。「女王のような生い立ちの者にとって,義務はつねに喜びに先立つものだった」,「いったん読み出した本は最後まで読むの。そういうふうに育てられたのよ」のような義務についての考え方もそうだが,ジェーン・オースティンの評価が変わるのが面白い。身分が隔絶した高みににある女王にとって,ミドルクラスの細かな階級の違いを背景にしたジェーン・オースティンの小説は最初は少しも馴染めなかった。しかし,沢山の本を読むうちに,ジェーン・オースティンの世界がわかるようになっていった。

 読書の筋力のついた女王は,最初は歯が立たなかったアイヴィ・コンプトン・バーネットもやすやすと読めるようになっていった。

 あまりに楽しく,一気に読んでしまった。


2009年6月 3日 (水)

シネマコンプレックスの陥穽

Isla_fisher  週末に,『お買いもの中毒な私!』を観に行った。シネマコンプレックスであるだが,係員に映画の題名を言うのに抵抗があった。この映画館は,インターネット予約が出来る。座席の指定も出来る。前の晩にこの映画が予約画面の最上位にあることを確かめていた。出かける前にあまり時間がなかったが,急いでパソコンで予約した。随分席が埋まっているようだった。

 映画館で装置から切符を出し,指定されているスクリーンに行った。やはり混んでいて,しかもポップコーン入った大きな紙コップを抱えた10代男女が大勢いた。妙だなと思いつつ,予告編を観た。そして,あの不快なパイラシー撲滅キャンペーンの後,映画が始まった。日本の高校の卒業式の場面だった。本編の直前に予告編が入っていることがあるので,それかなと思ったが,違った。やがて,映画のタイトルが映し出された。『ROOKIES -卒業-』。

 そこで鈍い頭がようやく事態を理解した。パソコンで予約した時に,映画の題名をよく見ずに,最上段の映画を予約したが,順番が入れ替わっていたのだった。しかも,装置から出てくる切符に書いてあるのはスクリーン番号で,映画の題名はないのだ。そして,このシネマコンプレッックスでは,各スクリーン入り口には上映映画名は示されていない。

 さあどうするのか,このまま『ROOKIES -卒業-』を観るのか,出て行くのか。結局,若者たちの「なに,あれ」という視線を感じつつ,すごすごと外へ出た。係員に説明して途中からでも『お買いもの中毒な私!』を観ることができるのかもしれないが気が進まなかった。

 後で別の映画館で,『お買いもの中毒な私!』を観た。ここは二つの映画館があって窓口は一つである。もう一本の上映映画は,『60歳のラブレター』だった。私が口を開くときまで,窓口係員は,この人はきっと『60歳のラブレター』だなと思ったことだろう。


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