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2009年5月24日 (日)

アンティキティラ島の機械の謎

『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』(Marchant, Jo. Decoding the Heavens. 木村博江訳.文藝春秋, 2009. 285p.)のアンティキテラは,ギリシャのクレタ島に近い島の名前である。1901年にその沖合に沈んだ古代の難破船から彫像や壺が発見されたが,その中に歯車としか見えない小さなブロンズ製遺物があった。


                             

Decoding_the_heavens_2  古代ギリシャに歯車があるはずはなかった。この発見は,しばらくは忘れ去られていたが,第二次大戦後,関心が向けられ始めた。これを乗せた船は紀元前1世紀に作られており,様々な証拠から紀元前86年から60年の間に小アジアを出航したらしいというところまで突き止められた。後にたまたま海に落ちたのではない限り,これはこの時代に作られたものである。けれども文字があるとはいえ,機械の断片しか残っていないし,アテネの博物館にしまい込まれていて,容易には目にすることができなかった。


 この機械の全体像はどのようなものだったのか,そして何のために作られたのかを解明する研究に取り憑かれた,科学史家,ロンドンの科学博物館の学芸員,そして記録映画プロデューサーらが僅かな手がかりを元に謎を解き明かそうとする。


 筆者は,女性の科学ジャーナリストであり,実によく調べてあって読みやすい。また,研究環境のよくない学芸員を主役に据えている点も理解できる。発見されてからの100年間に,研究で使われる機器が進歩していることがよくわかる。しかし,何よりも謎の大きさに惹かれて読み進むことになる。


 実は,ギリシャ時代に精密な機械が本当にあったということの他にもう一つ,驚いたことがある。それは,実質的に最初に解明作業を行ったのが,デレック・デ・ソラ・プライスだったことである。イエール大学で科学史を教えていたプライスは,科学や知識の成長法則を唱えたが,それを述べた著作『リトルサイエンス・ビッグサイエンス』は二十代の頃,何度も読み,特別に意味のある本だった。なるほど,これが本業だったのか。

 


2009年5月11日 (月)

日本最長路線バスに乗る

 日本最長の路線バスは,奈良交通の奈良県の大和八木と和歌山県新宮を結ぶ168キロを6時間半で走る路線と思われる。もちろん高速道路を走るバスでは,もっと長い距離や時間のものはあるのだろうが,それには関心はない。

 この路線は,かなり有名で,テレビ番組でもしょっちゅう取り上げられている。乗ってみたいと思ったのは,日本最長に惹かれる子供心による部分が大きいが,吉野や大峰,十津川,大台ヶ原,あるいは南朝や塩沼亮潤『大峯千日回峰行』(春秋社,2007)などこの地域一帯に興味があるからである。

 前夜は奈良に泊まり,大和八木駅のバス乗り場に発車時刻9時15分の10分前に行ったが,もう5,6人並んでいた。乗車口が前方一箇所の普通のバスがやってくる。運転手の後ろの席が空いていたので,そこに座ったが,これはよかった。乗客は15人ほどだった。かなり多い乗客数であるらしい。

 しばらくは,市街地を走る普通の路線バスで,乗降は激しい。奈良県の西にある御所市,五條市を通る。五条バスセンターで10分の休憩がある。五条の病院前から何人か乗ってくる。五条駅から乗ってきた9人のバックパッカー老人集団は,ハイキングコース入り口らしいところで下りた。五條市の南部から山間に入っていく。

 一週間前の天気予報では,晴だったが,残念ながら,雨の予報となった。紀伊半島の南に低気圧があるので,大雨になる可能性もあった。しかし,雨は降ってきたもののたいしたことはなかった。ただ,道は濡れている。

Totsugawa_2  結果から言えば,乗っていた間,全く退屈することはなかった。道は山の中を川に沿って続いていく。新緑の山に霧が立ちこめているし,滝もある。ところどころにダムがある。琵琶湖と同じ広さという十津川村には温泉もある。道はよく整備されているが,細い道や,一車線のトンネルがあるが,運転手は,どう判断するのか,ほとんど対向車に出会わずにすむ。バックしたのは1回だけだった。自分で運転していたら,景色を楽しむことはできないし,狭い道での交換にかなり神経を使うだろう。

 乗ってくる地元の老人たちはみな相互に顔見知りで,挨拶しあっている。五条市の病院で乗ったお婆さんは,十津川の小さな集落で下りた。高校生が乗ってきて十津川高校で下りた。ICカードに1万円分チャージしていった。

 1日3便あるこの路線が存在しているのは,十津川村の人々の公共交通手段の確保のためという点が大きいようだ。自治体や住民に路線バス運行への配慮があることがよくわかった。また,十津川温泉や熊野に行くための観光路線という意義も多少はある。それに,今回,他に2,3人いたが,最長路線だからという客もいるわけである。

 和歌山県に入り,熊野本宮大社の先にある湯の峰温泉に泊まり,翌日,新宮まで行ったので,一気に6時間半乗ったわけではない。それでも5時間以上だったが,疲れはほとんど感じなかった。


2009年5月 9日 (土)

映画『逢びき』は古びない

 2009年5月11日の夜中にBS2でデビッド・リーン『逢びき』(Brief Encounter)が放送される。

 60年前の白黒の『 逢びき』は,間違いなく恋愛映画の傑作である。

 数年前に初めて観て,その後500円DVDを購入し,一週間前にも観たばかり。

Briefencounter_2  平凡な男女の数週間にわたる出来事であるが,シンプルな中に様々な要素が凝縮されている。駅で列車が発着する光景,喫茶店の女主人と駅員のもう一つのドラマ,ラフマニノフ,劇中映画「パッション...」,そしておしゃべりで無神経なあの中年女性が,実は重要な役割を果たしていることに気付かされる。


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