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2008年7月25日 (金)

黒澤明監督全作品を観る(1)

Photo  2007年5月1日に,藤田進の『姿三四郎』に始まり,7月22日に松村達雄の子供時代のかくれんぼの夢でおわる『まあだだよ』を観て,黒澤明監督の全作品30本の鑑賞を終えた。
 NHKの衛星放送で,黒澤作品を放映し始めたのと,小林信彦氏の週刊誌のエッセイに全作品を順番に観ていると書かれているのを読んだのが動機である。NHKは,せっかく古いものから放送しているのに,何故か正確な発表順としていない。

 黒澤明監督作品は,全てDVDとなっているのだと思ったら,『デルス・ウザーラ』だけは,ビデオテープとレーザーディスクしかなかった。かなり困ったのだが,結局,近くの図書館のブースでLDを観た。

Maadadayo  その他は,全てDVDがある。DVDボックスなどで全作品を買うということは,全く考えず,レンタルビデオ店で借りた。ところが,同じ店で,借りようとする作品ばかり借りられていることが多く,全作品を順番に借りているらしい客が複数いることに気付いた。そこで,郵送レンタルDVDサービス導入で乗り切り,何とか追い越した。

 黒澤作品のほとんどの題名は知ってはいるが,大多数は観たことがなかった。黒澤明監督に特段の思い入れはない。どちらかと言えば,田草川弘『黒澤明vs.ハリウッド』(文藝春秋,2006.486p.)で描かれた黒澤明像で幻滅した者の一人である。

 これは,フォックスのダリル・ザナックからの依頼で『トラ・トラ・トラ!』の監督を引き受けた黒澤明監督がなぜ解任されたかを明らかにしている。撮影は1968年12月に京都の撮影所で始まったが,徐々にその現場が崩壊していく様が圧巻である。

 様々な齟齬で,睡眠不足になった黒沢監督は酒くさいまま遅刻して撮影所にあらわれ,スタッフを罵倒し,倒れて入院する。泊まっていた俵屋で器物を毀して追い出される。黒澤監督は,日本側の演出担当でしかないのに,映画全体の総監督と思いこんでいた。日本では黒澤監督を擁護する声が多いが,こう詳細に錯乱状態を突きつけられれば,解任は妥当であるとしか思えない。

 全作品を観て,自信を持って言える黒澤明監督作品のベスト3は,公開年順に
  『七人の侍』(1954)
  『隠し砦の三悪人』(1958)
  『天国と地獄』(1963)
の三作である。

 また,
  『一番美しく』(1944)
がよかった。

 他には,『用心棒』(1961),『椿三十郎』(1962),『影武者』(1980)と平凡な結果となる。

 一方,観るのが苦痛だったのは,『白痴』(1951),『どん底』(1957),『どですかでん』(1970),『乱』(1985),『夢』(1990),『八月の狂詩曲(ラプソディー)』(1991),『まあだだよ』(1993)だった。

 苦痛と思う理由の一つは,長いことである。黒澤監督の最初の10作品の平均時間は96分と普通なのに,中盤の10作品は136分,終盤も141分と極端に長い。最も長いのは,『七人の侍』の202分であるが,これは独創的なエピソードが豊富で飽きない。しかし,後期の黒澤作品では,一つ一つの場面,エピソードがきわめて長くなっていて,そのエピソードも退屈な内容だった。『まあだだよ』の中で繰り返される凡庸な会合場面には辟易とさせられた。

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2008年7月23日 (水)

深海のYrr(イール)  【B+】

Derschwarm  フランク・シェッツィング『深海のYrr(イール)』(Schatzing,  Frank.  Der Schwarm. 北川和代訳.早川書房,2008. ハヤカワ文庫 上中下)は,2004年にドイツでベストセラーとなった海洋サスペンス,テクノスリラー,エコスリラー,あるいはSFである。

 ノルウェーの海洋生物学者で大学教授のヨハンソンは,石油会社から調査を依頼されたゴカイの新種が何百万匹も海底にいてメタンハイボレートの層を掘り続けていることを知った。それが引き起こすと予想される事態は,大災害だった。

 カナダのバンクーバーでホエールウォッチングの案内人をしながらクジラの研究を続けているアナワクは,ある日,クジラやオルカが人間を襲う事件に直面する。
 やがて,ノルウェーからイギリスにかけての大陸棚が崩壊してしまう。

 原作は997ページの厚さ,翻訳は文庫版で三冊,それぞれ500ページを超え,読み終えるのに二ヶ月かかった。こうした小説特有の解説の量や登場人物の多さ,登場人物たちそれぞれの細かいエピソード,恋愛沙汰などの枝葉の部分があり,なかなか進行しない。ただ,著者は,大勢の人たちを登場させるが,その大部分をあまり大事には扱わない。

Irr  全体として,謎解き部分8割,対策2割である。前半は,海の異常が地球環境問題の結果なのか,新しいテロなのかよくわからない状態におかれる。クライブ・カスラーの作品のように,テロリスト(国家)が地球や生態系の変動まで画策するのも今や普通である。真ん中あたりで,真相が明らかになるのだが,これには意表をつかれた。これは恐ろしいし,手強い。

 さて,それから,問題解決に向けて,平和的な対策と対決に分かれるのも常道であるが,作者はアメリカ帝国主義がよほどお嫌いらしく,米国人を散々虚仮にしている。終盤は,性急で説明不足である一方,ドンパチまで持ち出してくる。よほど余裕がなくなったのだろうと思われる。

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