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2006年5月29日 (月)

小川洋子『ミーナの行進』の1972年

Minako  小川洋子『ミーナの行進』(中央公論新社,2006,331p.)は,著者名とカバーに積み重ねた本が描かれていたので買ったのだが,読み始めたら,最後まであっという間だった。『博士の愛した数式』に優るとも劣らぬ傑作である。

 カバ(正しくはコビトカバ)の背中にくくりつけられた座椅子に乗って坂道を通学する小学生の女の子が実在するとしたら,その背後にはどのような事情があるのだろうかということから拡がった物語なのだろう。語り手は,母と離れて伯母の元で暮らすことになった朋子で,中学1年生である。主人公ミーナの父は,フレッシーという健康飲料の会社を経営している。

 時は,1972年,六甲の麓,芦屋の高台にある部屋数17の洋館にミーナは住んでいる。時々,喘息の発作で入院する。「ミーナという子供を一言で説明しようとすれば,喘息持ちの少女,本好きの少女,コビトカバに乗る少女,さまざまな言い方があるだろう。けれど他の誰とも違う,ミーナがミーナである証拠を示そうとするならば,マッチで美しい火を点すことのできる少女,と言わなければならない」。登場人物は,類型的ではあるにもかかわらず,個性が際立っている。過不足ない描写と生き生きした会話が現実感を高めている。

 盤石に見える日常生活ではあるが,不安と陰影が潜んでいることに朋子は気付く。『博士の愛した数式』では,阪神と江夏が,時代を明確に表していたが,ここでは,ミュンヘンオリンピック,男子バレーボール,猫田選手で特定され,この頃には,まだ,マッチ箱やタケダのプラッシーがあったことを思い出させてくれる。

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